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#05:友愛記念病院がめざす道

 この文章は、平成 14 年5月 25 日に開かれた茨城県民生活協同組合総代会の議案書に医療事業計画として書いた文章を、その年発行の友愛記念病院誌に載せたものです。
 その年の4月から院長に就任したのですが、院長に就任する以前からずっと主張し続けてきたことであり、この方針は今も変わっていません。

友愛記念病院がめざす道

院長 加藤 奨一

 さて、今年4月に医療法が改正され、2年毎に繰り返される診療報酬改定で過去はじめて医療費のマイナス改定がなされました。病院が収入として得られる法定価格である診療報酬が平均で減額になり、同じ医療行為をした場合結果として病院の全収入が減る方向に行政が誘導したということです。

 同時に、いくつかの手術については、年間施行件数が 5 例以下、 10 例以下、 50 例以下の場合、通常の診療報酬の 70 %しか手術手技料が請求できないというように、医療の質や数によって、病院が得られる収入に差をつけるという方針が打ち出され、また、「特定療養費」として各病院が勝手に設定できる、実質上の自費診療費部分がはじめて外来再診料にも拡大されました。

 これらの政策は、医療の質が高い病院には多くの収入を与えると同時に、「ブランド」力、人気のある病院は収入をのばし、さらに発展していけるということにつながり、自由競争の要素を拡大し、病院の自然淘汰を促進することを意味しています。

 また、重症度の違う患者に対して、あるいは、ひとりの患者でも病状の変化に合わせて最適な医療の場を提供し、医療資源を無駄なく有効に使い、かつ、医療の質も高め、膨れあがる医療費を抑制しようという政策も進行中です。急性期病床(皆さんがよくご存じの従来の普通の病院の一般病床で、普通に「病院に入院した」と言ったら、この種の病床を意味するでしょう)、回復期リハビリ病床(機能回復を目的とした病床)、慢性期病床(病状が安定し、時間をかけて療養するための病床)、緩和ケア病床(いわゆる「ホスピス」です。末期癌患者の残された命を有意義に過ごさせる病床)など異なる性格、違った施設基準(付帯施設、医師数、看護婦数等の基準が異なります)を持つ施設でそれぞれの病態に最も適した治療をおこなおう、という考え方です。

 毎年増加の一途をたどり膨れあがる国民総医療費を抑えるため、医療保険を資金源として、様々な最先端医療がなされ、金のかかる急性期病床を現在の 3 分の 2 、ないし、 2 分の 1 に減らし、残りを介護的要素の強い「慢性期病床」に転換させよう、というのが厚生省の方針です。

 厚生省のもくろむ今後の医療・介護施設の形態は、
1)「かかりつけ医」としての診療所、
2)公的病院を主体とした、急性期医療を担う「大病院」、
3)介護保険からお金が出、金のかかる医療行為が制限を受けるため、急性期病院よりは安上がりで済む、長期療養が可能な慢性期病床を持った、私立主体の中小病院、
という色分け、3極化です。

 言い換えると、現在一般病床 267 床の認可を受けている友愛記念病院規模の中途半端な急性期病院は要らない、大きくして医療の質・量をさらに高め、急性期病院を続けるのか、現状維持ないし縮小して慢性期病院に転換するのか、はっきり決めろ、という選択を迫られているということです。
 当院でもこういう日本の医療制度の流れを受けこの約2年間、今後の方向性模索を続けてきました。
 その結果、今後も慢性期病床への転換は一切せず、上記2)の、急性期医療を担う「大病院」となって運営していくという方針に決まりました。
 多額の補助金をもらっている公的な病院を競合相手として、急性期病院として存続を目指そうということです。この厳しい戦いに挑むにあたり、友愛記念病院が目指す姿は「特色ある急性期病院」です。
 国公立病院のように、公共性が高いからと言って赤字部門を抱えることはできません。おのずと、全診療科を網羅した完全な総合病院にはなり得ません。地域住民のためにどうしても必要な医療機能はそろえなければなりませんが、不採算部門と言えどもせいぜい収支プラスマイナス・ゼロが限界で、高収益率の得意分野をさらにのばしつつ、必要かつ不足している医療機能を足していくという形が経営上も最も効率的で安全な道と思われます。

 そこで、当院の過去の歴史・伝統、実績に鑑み、「特色ある急性期病院」として友愛記念病院が発展し存続するために今後目指す医療の方向性を以下に列挙致します。

1.癌に対する「トータル・ケア施設」を目指します:

 大学附属病院や地域がんセンターとはひと味違って、早期発見から終末期医療まで癌患者をトータルで診療できる病院を目指します。
 平成 10 年 1 月から稼働している附属総合健診センターをフル活用し、健診者数のアップ、健診内容の充実を図り、癌の早期発見例を増やします。
 本年7月より他院から健診専属医師を引き抜きました。
 現在も当院の売りのひとつである癌の手術治療例をさらに増やすと同時に、外来通院化学療法(抗癌剤治療)を含む化学療法部門を充実させ、当医療圏にまだない放射線治療施設を持ち(リニューアルなしでは不可能)、手術・化学療法・放射線治療という癌治療の3本柱を保有、「癌になったら、友愛に任せれば安心」というブランドの確立を目指します。
 手術後通院治療時、少し食事が摂れないような時でも、すぐに短期間の補液目的入院が可能、というような地域密着型の癌患者のきめ細かなケア(大学附属病院やがんセンターでは決してできない)をおこない、他の癌治療施設との差別化をはかります。
 将来的には緩和ケア病棟を設置し、積極的癌治療不可能例に対する緩和医療の充実を図る予定ですが、その準備のための医師・看護婦の研修教育をおこないます。在宅緩和ケア体制も作っていきます。

2.地域の「サージカル・センター」を目指します:

 現在も活躍中の既存外科系各科(外科・消化器外科、眼科、整形外科、脳神経外科)をさらに拡充・充実させ、近隣開業医の先生方との病診連携(病院と診療所の連携)の強化によって、当医療圏で手術が必要な患者さんの吸収、独占をはかり、当地域の「手術センター」になることを目指します。
 また、この特色をさらに発展させるために、今当院にいない外科系診療科常勤医(婦人科、泌尿器科、呼吸器外科、等)を今後獲得して、手術をおこなっていくことも考えています。

3.急性期病院として確固たる地位の確立を目指します:

 心臓カテーテル検査のテクニックを持った内科医を獲得し、 PTCA (心筋梗塞のカテーテル治療)のできる施設にし、急性期医療のもうひとつの柱、循環器内科の充実を目指します。
 また、「外来定期通院治療は病院というところではやるな。通院は診療所に行かせなさい。入院が必要な時だけ病院で治療しなさい。」というのが厚生省のもうひとつの大きな方針です。
 それに伴い、病診連携強化により、当院外来部門の性格を、慢性期患者外来(病状が落ち着いた患者さんが定期的に外来通院する)から紹介急性期患者外来(急性期患者が近隣開業医の先生方から紹介により受診することが中心)へシフトさせます。
 すでに本年2月より「紹介患者専門外来」を開設しました。

4.現在弱点の診療科の整備を目指します:

  20 年来の当院の最大の弱点、アキレス腱である、内科の充実を図ります。
 特に、呼吸器内科常勤医、内分泌内科常勤医を獲得し、呼吸器系疾患、糖尿病等、当地域に多い内科系疾患診療の充実を目指します。

 同時に、非手術的内科的侵襲的治療のテクニックを持った消化器内科常勤医や肝臓内科常勤医の獲得により、現在消化器外科医が「消化器科」として消化器内科医の役目を果たしている体制の弱点の補正も目指します。
 可能であれば、どこかの大学医学部全内科ぐるみの協力・支援体制をとりつけます。

5.地域の「画像診断センター」を目指します:

 「通院は診療所で、入院は病院で」という厚生省の大きな方針の中で、病院でしか出来ない特殊な画像診断検査を、紹介開業医の先生方から簡単な手続きで当院に依頼できる体制を作ります。

6.各種の病院資格取得を目指します:

 1)急性期特定病院、2)臨床研修指定病院、3)各種学会認定施設、等各種病院資格取得を目指します。
 そのために、急性期病床 300 床以上への増床、新設科常勤医(婦人科、皮膚科等)獲得も視野に入れています。
 各種学会施設認定のための専門医・指導医資格取得を目指し、その要件となる学術業績を増やすため「学術奨励制度」を 4 月 1 日付けで策定しました。

 以上、この中の多くはリニューアル(病院建て替え)なしでは不可能です。
 しかし、今から実行可能なものもいくつかあり、すでに体制作りが始まっています。

 また、医療行政の面からは、2年前の改正医療法ですでに、従来の病床の施設基準が変更され、狭歪な日本の医療施設の療養環境を改善すべく、急性期病床においても 1 床あたりの専有面積の拡大や廊下幅の拡大等が図られ、当院は構造上この新施設基準はクリアーできず、簡単な改築ではこの新基準を満たすことが不可能であることが分かっています。さらに、今年4月からの改正医療法では、施設基準を満たした病院には診療報酬のあるものに加算を与え、今後は基準を満たさない病院に対しては診療報酬を減額する方向に向かっていくものと思われます。
  当院でも昨年 5 月末にリニューアル準備委員会を立ち上げ、当組織全職員からのアンケート調査、設計・建築会社各社との話し合い、他病院の視察、リニューアル後の収支計画検討等、様々な視点から検討を進めた結果、地域住民が望み支持する医療機能の提供、医療を取り巻く環境変化に対する可変性・将来性、今後の経営面での優位性、等の観点から、健診センターを除く病院全施設を建て替えることが最適な選択肢であると結論され、現在移転建設予定地を選定中です。

 政治・行政が今後の日本の医療・介護施設の方向性として、1)かかりつけ医としての診療所、2)急性期医療のための「大病院」、3)長期療養のための中小病院、という色分け、3極化を打ち出している以上、友愛記念病院が一般の「急性期病院」として今後もやっていくには、「中小病院」として「現状維持」していくという道は許されず、「特色ある急性期病院」になるべく、実質的な「拡大路線」を歩み、「大病院」に変貌していくしか道は残されていません。
 高い医療の質を獲得することにより、多少の医療行政の変化ではびくともしない病院、「経済に医療が合わせる」のではなく「経済が医療に合わせざるを得ない」、地域で必要不可欠な病院、「きちんとしたいい医療をやっていれば、おのずと金もついてくる」病院、医療主導だが経営的にも優れている、医療の質と収益性が高い次元でバランスのとれた病院を目指していきます。

(平成 14 年 5 月 25 日茨城県民生活協同組合総代会議案書、医療事業計画原稿から抜粋、平成 14 年8月発行の友愛記念病院誌の原稿)

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