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#17:勤務医不足と医療費抑制策、医療訴訟

 この文章は平成18年4月に、病院広報誌第7号のオピニオンコーナーに書いた文章です。
 社会問題になりつつある病院の勤務医不足と医療費抑制策や医療訴訟について書きました。

勤務医不足と医療費抑制策、医療訴訟

          院長 加藤奨一

 皆さん、最近日本中で「医師不足」、特に病院の「勤務医不足」という問題が起きていることをご存じでしょうか。やっと衆院厚生労働委員会で医師不足の問題についての質疑があったり、テレビでも特集が組まれたり、新聞や雑誌でも取り上げられることもあるようになりましたので、ご存じの方も多いのかもしれません。
地方においては特に深刻で、小児科医や産婦人科医が不足し、小児科の救急医療が受けられない地域や、地元では出産ができず、遠方の病院に入院するしかない地域も増えています。また、小児科医や産婦人科医だけでなく、内科医がいなくなり、内科の入院治療が行えなくなった地域もあります。
 厚生労働省は、日本の医師の総数は不足してはおらず、地域や診療科による医師の“偏在”が問題だ、の一点張りですが、勤務医の余っている地域など聞いたことがありません。
 「勤務医不足」の原因としては、2年前に始まった新臨床研修制度が大きく取り上げられていますが、それだけではないように思います。
 「勤務医不足」の根底には、国家的な医療費抑制策と医療訴訟の急増があるのはないでしょうか。政府も行政もマスコミも決してそんなこと言ってくれませんが、医療に注がれる国家予算が少ない国ゆえに起こっている問題であり、医療訴訟の急増も「勤務医不足」という問題に一役買っているのではないでしょうか。
 日本は医療安全対策の“後進国”だったので、病院にヒアリ・ハットの報告・分析のシステムができたり、医療従事者が医療ミス防止に一生懸命になったことはよいことですが、連日報道される医療訴訟の記事の中には、同業者として「このケースはちょっと・・・」と首をかしげたくなるような事例もたくさんあります。本来憎むべき相手は“病”なのに、結果が悪く終わったことの責任を全て医師や病院に押しつけているのでは、と思える事例が目につきます。「寝食を忘れて一生懸命に治療に当たっても、結果が悪ければ訴えられる」という風潮が、医師達の医療に対するモチベーションを低下させています。このような風潮ですから当然、仕事がきつく、かつ、リスクの高い診療科は若い医師に敬遠されます。小児科、産科だけでなく、脳神経外科、外科、内科なども、患者さんの命に関わることが多い診療科なので、嫌われる傾向にあります。
一生懸命やっても報われないことに嫌気がさして、卒後10年くらいで勤務医を辞めて開業する医師も最近急増しているそうです。
 訴訟社会の到来によって、患者さんの「生き死に」に関わる診療科の医師が激減し、国民の多くがまともな医療を受けることができなくなる時代が到来しそうです。日本には今こうした「医療崩壊」の危機があることについて多くの方に知ってもらいたいと思い、今回はこのテーマを取り上げてみました。

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