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#47:7対1看護

この文章は平成26年4月に発行された病院広報誌37号に書いた文章です。

7対1看護

院長 加藤 奨一

 前回のYou&Iでは、診察代、検査代、入院費、手術代、薬代などの医療費の全てを国が決める、完全な「法定価格」であるのが日本の「診療報酬制度」であることを述べ、2年毎の「診療報酬改定」の年が今年4月にやってくることを書きました。

 厚生労働省は、医療機関にやらせたいことがあると、やらないと診療報酬が支払われないようにするか、あるいは、やらせたいことに対して診療報酬額を高く設定します。当然医療機関は収入を確保するために、厚生労働省が作った基準を満たす医療体制を整えようとします。こうした「経済誘導」が厚生労働省の常套手段です。

 そうした中で今回の改定で波紋を呼んでいるのが「“7体1看護”降ろし」です。

 公的医療保険から病院に支払われる入院診療に対する報酬は、その病棟で勤務する看護師1人当たりが担当しなければならない入院患者数が少ないほど高く設定されています。言い換えると、その病棟を担当する看護師の総数が多いほど病院に支払われる診療報酬額が高くなります。現在一般病棟では、看護師1人が対応する患者数に応じ、「15対1」「13対1」「10対1」「7対1」の4区分があります。この中で一番総看護師数が多くなければいけない「7対1」は2006年の診療報酬改定で設けられました。

 この看護基準を作った厚生労働省の意図するところは、日本でも「欧米並みに手厚い看護ができるようにする」だったはずです。確かに7:1看護基準を取った病院では「今までより患者さんに接する時間が取れるようになった。」との声が看護師達から聞かれましたので、患者さんにとってもよいことではないかと思います。

 しかし、今回の改定で「“7:1看護基準”降ろし」という方針が打ち出されました。今でも重症患者さんが一定比率以上入院していないと7:1看護基準は認可されないのですが、その基準をより厳しくし、現在7対1看護基準を取っている病院の多くが7:1看護基準を取れないようにするのです。7対1看護基準の多くの病院が10:1看護基準に戻さざるを得なくするという厚生労働省の戦略です。

 厚生労働省の言い分は「7:1看護基準が必要なほど重症患者が入院していない病院の多くが7:1看護基準を取ったために、看護師不足を招いている。」ということですが、8年前の厚生労働省の方針に従い、各病院が苦労して看護師を集めて「手厚い看護」の方にシフトしてきたのに、今度は「重症な患者がたくさん集まっている病院、病棟以外では、そんなに手厚い看護は必要ないでしょう。病状の落ち着いている患者さんは、もう少し“手薄な”看護で我慢しなさい。」「ナースコールで呼んだとき、以前のように、看護師が忙しくてなかなか来てくれなくても我慢しなさい。」と厚生労働省が国民に対して言っているということです。

 確かに看護師が多ければ、人件費が増えますので、入院医療費を高く設定しなければなりません。その結果医療費の総額は増えますが、医療を含めた社会保障費を確保するためにこの4月に5%から8%に消費税を増税するのではなかったのでしょうか?

 この方針転換に、医療を受ける「国民の視点」は反映されているのでしょうか?皆さん、どう思われますか?

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