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#67:厚生労働省の不正統計問題

この文章は2019年4月に発行された病院広報誌57号に書いた文章です。

厚生労働省の不正統計問題

院長 加藤 奨一

厚生労働省の不正労働統計問題が世間を騒がせていますが、昨年医療界でも不正統計問題がありました。なぜか今回のように大きく報道されませんでした。

一般の商取引では、小売業者は卸業者などに消費税を支払い、その分を小売価格に上乗せし、消費税は最終消費者が負担しますが、保険医療では最終消費者である患者さんに対して消費税は課税されません。

しかし、医療機関が診療に必要な薬剤や医療器材を購入する時には納入業者に消費税を支払います。この消費税を患者さんや保険者に転嫁することはできず、医療機関が負担します(「控除対象外消費税」)。「損税」と言われる所以です。
このため、消費税率が上がる時には、医療機関の消費税負担を補填するために、特別の診療報酬改定(消費税対応改定)を行うこととなっています(消費税導入時の1989年度、消費税率引き上げ時の1997年度、2014年度)。2014年度(5% → 8%)の消費税対応改定が適正であったかどうかの影響調査時に不正統計がありました。

2015年11月、厚生労働省は医療機関全体で102.07%、一般病院では101.25%、精神科病院では134.47%、特定機能病院では98.09%、こども病院では95.39%の補填がされていると報告していましたが、2018年7月の「医療機関等における消費税負担に関する分科会」で、複数月をまたぐ入院で入院日数が重複してカウントされるという誤りを指摘され、再調査・分析を行った結果、病院全体で102.36%→85.0%、一般病院では101.25%→85.4%、特定機能病院では98.09%→61.7%と、実際は十分な補填がされていなかったということが明らかになりました。
8%への消費税率アップ後、どこの病院も経営が悪化しており、十分なプラス改定になっていないと訴えていました。「やっばり!」だったわけです。

毎年、日本の病院全体で約260億円の補填不足があり、2014年度改定以降複数年合計すると1,000億円以上の補填不足があったことになります。
不足分を遡って補填すべきだとの要望も出ましたが、一般診療所(111.2%)、精神科病院(129.0%)、療養病棟入院基本料算定病院(107.5%)の補填過剰分の返還を求めなければならなくなるので不可能である、との厚労省の方針でした。「多く払ってしまった医療機関に対しては目をつぶるから、不足していた病院は我慢しろ」です。相変わらずひどい話です。

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