オピニオン

トップページ > 病院のご案内 > 病院について > オピニオン > #04:"Continuum of Care"と当院のリニューアルについて

#04:"Continuum of Care"と当院のリニューアルについて

 この文章は平成 13 年7月発行の友愛記念病院誌(年報)に書いたものです。
 その前年(平成 12 年)から病院の増改築の話が持ち上がっていました。私はその最大の推進者としてやっていましたが、この文章を書いている時点ではまだ、本当に病院の建て替えをするのかどうなのか、経営トップの決断がなされていませんでした。私の立場はまだ“外科部長”です。この文章は、病院全職員に対してリニューアルの必要性を説く、という意味で書きました。

“ Continuum of Care ”と当院のリニューアルについて

外科 加藤奨一

 毎年年報に何か書けと言われながら、締め切り間近までなかなか書き出せません。今日意を決して原稿用紙、と言うより、ワープロの前に向かい、文章を書き出しました。

 今年は“ Continuum of Care ”という言葉の説明と当院のリニューアル(建て替え)についての提案をしてみます。

 まず、平成 10 年 10 月に2週間ホノルルにアメリカの医療の勉強に行った時、多くの講師の方にレクチャーしていただいた中で様々な印象深いフレーズを聞きましたが、その中で、友愛記念病院の今後の方向性を考える上で参考となるかもしれない“ Continuum of Care ”という言葉について少し書いてみたいと思います。

 その前に、現在友愛記念病院を支持してくれて、好んで当院に診察に来られる患者さんにとっての当院の魅力はどのようなところか、考えてみます。
  それはたぶん、
1)  大学病院や国公立病院のような高機能化、専門分化した大病院とは違い、医師数や看護婦数も少なく、患者さんやそのご家族はどんな医者や看護婦がいるのか把握できるくらいの、ほどよい規模である。
2)  地域に根ざしており、全科そろっていないが、そうかと言って、様々な疾患を持っていても複数科でそこそこに診療が受けられる。
3)  いつも診てもらっている「かかりつけ医」的な外来の医師が、何かの時は他科の医師とよく相談しながら診療をしてくれ、入院が必要な時はすぐ入院させてくれて、入院時も担当医となってくれる。
4)  どうしても当院では処理しきれない疾患、病態の時は、担当医が責任を持って、次なる高次の病院に紹介してくれる。
というような、大病院でもなく、個人医院でもなく、地域密着型の、大きすぎず、小さすぎず、適度な大きさの準総合病院である、という点ではないかと思います。

 しかし、日本の医療経済の変化(医療に湯水のようにお金をつぎ込むことができなくなってきた)、それに伴う医療行政の変化により、今までそのようなスタイルが患者さんに対する魅力であった友愛のような中小病院の存続が危なくなってきました。
  厚生省が、全ての診療科を揃え、高度先進医療も出来、多数の職員を抱える大学病院や国公立病院のような大病院に急性期医療を担わせ、診療所にはかかりつけ医の役割をしてもらう、という二極化をはかり、今までかかりつけ医としての役割も、急性期病院としての役割も、慢性期患者の入院施設としての役割も同時に果たしてきた友愛規模の病院に対して、そんなことしていたら経営的にうまくいきませんよ、という制度にしてしまったのです。

 ここに、「急性期病床」と「長期療養型病床」(慢性期病床と言ってもいいと思います)という入院病床の区分けが出てきます。
 「急性期病床」というのは、様々な疾患の急性期で濃厚な医療行為が行われる時期の患者さん用の病床で、今の日本の医療制度では、基本的には使った費用分だけお金が健康保険組合から病院に支払われます。反対に、「長期療養型病床」(慢性期病床)というのは、疾患がある程度落ち着き、あとは時間をかけてなおしていくという時期の患者さん用の病床で、一日いくらと病院に支払われる医療費の額が固定されています。ここには安定している患者さんには必要もない医療行為をして病院が儲けようと出来ないように、という抑止の意味も込められています。

 大病院は急性期患者を多数入院させる急性期病床を持った急性期病院としてやっていくでしょうが、中小病院には急性期病院としてやっていくのか、慢性期病院としてやっていくのか、あるいは、これを色々な比率で併せ持つ病院(「ケア・ミックス」と言うのだそうです)としてやっていくのか、という選択が迫られています。
 ここにまた、急性期病院として生き残っていくための飴をちらつかされています。
1)  紹介率30%以上、
2)  一日平均外来患者数:入院患者数= 1.5 :1以下
なら、全入院患者の毎日の入院基本料にいくらか上乗せした額が保険点数として病院側がもらえますよ、などというのがそれです。

1)は努力次第で達成できるかもしれませんが、当院に対して患者さんが望んでいる姿ということを考えると、2)は到底クリアーできない基準です。

 また、急性期病床に入院している患者さんについては、慢性期に入ったのに病院が長く入院させないように、入院後2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月と長くなるにつれて患者1人、1日あたりの入院基本料がだんだん安くなり、3ヶ月以上入院していると、その患者に対しては病院が損をするような診療報酬制度にしています。
 こういう病床区分があるなかで、友愛記念病院の現在保有しているベッドは全て制度上は「急性期病床」なので、ベッド認可上の性格と実際の入院患者さんが急性期なのか慢性期なのか、という現実の特性とのギャップから色々な歪みが生じることになります。

 一例をあげれば、高齢者は、ひとたび何かの疾患で入院した場合、その疾患が落ち着いても、入院前の状態に身体的に戻ることが困難になり、なかなか退院できません。以前なら、患者本人やご家族の希望があれば、いくらでも長く入院していればよかったでしょう。しかし、今の診療報酬制度では、こういう長期化した入院患者を急性期病床しか持たない当院に置いておくと、診療実費に見合うだけの診療報酬を健康保険組合から病院に支払ってもらうことができず、病院がそのコストを負担し、赤字になるという構造です。したがって、担当医や病棟婦長は心を鬼にして退院を嫌がる患者を退院させることになります。

 もちろん、すぐに引き取ってもらえる長期療養型病床があればいいのですが、この地域では長期療養型の必要病床数を充足してはおらず、なかなか転院できずに、手続きに苦労するのが常です。

 本題から少し脇道にそれてしまいますが、事のついでに、今の医療制度の矛盾をもう一例挙げると、昨年記念誌に書いたことですが、「外来は診療所で、入院は病院で。」という厚生省の日本の医療に対する大きな誘導策があり、友愛で毎日あんな忙しい思いをして外来診療、特に再診患者の診療をしていても、我々のその労働に対する適正な診療報酬が支払われない、という問題もあります。同じ外来診療をしていても、診療所と病院を比べると、病院では診療所の何分の一しか診察代をもらえないということです。特に、3科も4科も同じ日に受診していく患者さんには1科分の再診料しかもらえないということになっています。したがって、患者さんが友愛に通院したい、という気持ちを全て聞き入れていたら、外来部門単独では赤字になります。

 昨年4月からのこの誘導策に対して、当院でも病診連携、診療所への逆紹介を積極的におこなっていますが、それでも外来再診患者さんは減っていません。

 この動きにすぐ反応して、外来を全面的にやめ、紹介・入院に絞った病院も日本にありますが、友愛がその道をとれるでしょうか。今も他の多くの病院では、外来部門の縮小はあきらめ、患者サービスのため赤字部門でも仕方がない、と考えてやっているようです。

 ちょっと本題からそれてしまいました。

 さて、本題の“ Continuum of Care ”についてです。“ Continuum ”は“ Continuity ”でもいいと米国の医師は言っていましたが、日本語では「医療の連続性」とでもなるのでしょうか。
 どういうことかと言うと、これも発想の元は限られた医療資源を無駄なく有効に使って、医療の質を維持しながら、医療にかかるコストを極力抑えよう、国としての総医療費を抑えよう、という発想に根付いています。

 たとえば、交通事故で四肢の骨折があり、同時に小腸破裂を伴った、もともと糖尿病がある75才くらいの患者さんが救急車で病院に運ばれてきたとします。
 まず、救急室 (ER ですね ) で救急処置をしながら血液検査やレントゲン、CTスキャン等がおこなわれるでしょう。四肢の骨折と小腸の破裂と診断がつき次第、手術室で緊急手術が行われます。手術後は ICU (集中治療室)で術後急性期を乗り切るまで集中治療が行われます。バイタル・サイン等が安定したら、当院なら、次は一般病棟のリカバリー室でしょうか。数日後に大部屋に移し、他の患者さんと混ざって治療を受けることになります。傷も治り、ドレーンも抜け、食事も再開し、あとは数週間で退院となります。しかし、この患者の場合、下肢の骨折で長期臥床していたため、術前のようにすぐは歩けないため、しばらくのリハビリが必要で、今まで未治療だった糖尿病が意外と重症であることも判明し、インシュリン注射による血糖値コントロールや食事指導をしっかりしないと退院できない、ということが判明したとしましょう。

 当院を含め日本の多くの病院では、この患者の場合、傷が治り、食事が食べれるまで外科病棟で入院し、血糖値のコントロールが必要なら内科に転棟、リハビリは整形外科病棟に転棟してやるか、内科で平行してやるかでしょう。いずれにしろ、一般病棟(いわゆる急性期病床)一辺倒で診療するわけです。

 患者の病態、体の状態が変化しても、同じ看護基準(同じ看護婦数の病棟)、同じ職員配置、マンパワーの所で治療するわけです。

 これを変えようというひとつのコンセプトが“ Continuum of Care ”です。具体的には、先の患者だったら、「 ICU →リカバリー室→急性期病床→亜急性期病床→回復期リハビリ病床ないし長期療養型病床→訪問診療→通院」というような流れになるのでしょう。

 手のかかる時期の患者は、多くの医療職がおりマンパワーの十分な治療の場で治療をし、手がかからなくなり、リハビリや介護的要素が多くなった時期の患者は、医師や看護婦の少ない、他の理学療法士や介護士などの多い治療の場で治療をし、「適患者適所」(適材適所をもじってます)の治療を行おうという思想です。病状変化の中でその時その時で最も適切な「場」で治療を行おうということです。

 医療に携わる人のマンパワーとその職種配分も ICU 、リカバリー室、急性期病床、亜急性期病床、回復期リハビリ病床、長期療養型病床では違いますので、治療にかかるコストもその治療の「場」、その治療の「場」で違い、適切なコストのかけ方ができるという発想です。極端な言い方をすると、 ICU のように金のかかるところで回復期リハビリ中の患者を診ていたのでは、医療費の無駄遣いだということです。

 日本の医療にもこういう姿が導入されていきます。そのひとつが「急性期病床」と「長期療養型病床」という区分けや「回復期リハビリ病棟」でしょう。

 当院は全て「急性期病床」として入院ベッドを持っていますが、職員の皆さんもお気づきのように、患者さんの疾患、病態が急性期病床向きの患者ばかりではありません。長期療養型病床に入院すべき患者、いわゆる慢性期患者も多数いるという印象を誰も持っていると思います。

 加えて、約2年後に各病院が自分のところの病床を「急性期病床」なのか「長期療養型病床」なのか、あるいはそれぞれ何床ずつなのか、届け出をしなければいけなくなるのだそうです。ところが、今の友愛の病床は1ベッドあたりの専有面積の点でどちらの病床にするにしても、狭すぎて基準をクリアーできないということが分かっています。どうしても今の建物だけを使うのなら、ベッド数を減らして1ベッドあたりの専有面積を上げなくてはいけません。ベッド数を減らしたくなければ、増築なり建て替えなりをするしか方法がなくなりました。

 以上の諸般の事情から、日揮エンジニアリングという外部の会社に当院に関する各種の調査、特に、実際の入院患者の特性から見た当院の急性期患者:慢性期患者の比率、実際の急性期病床としての必要数、等の算出を依頼していました。

 先日この日揮という会社が当院に関する調査結果を報告してくれましたが、その調査によると、今の友愛の入院患者での急性期患者と慢性期患者の比率は約7:3でした。

 ベッド数でいくと、いつも満床では緊急入院もできませんから、 85 %くらいの稼働率だとして、約 190 床の急性期病床があれば足りる、という数字を出してくれました。我々の日々の印象には合う数字でした。厳しい数字ですが、これが現実です。

 さあ、では今後当院はどうしましょう。

 先日の日揮の報告会の後で僕が自分なりに考えてみた、当院の今後の方向性、建物のリニューアルについての提案(幹部の方にはメールに書いておくりましたが、その時とは若干数字が変わってます)を書いてみます。

 今後の選択肢には以下の3つくらいがあると思います。

<プラン1>
 現在の認可ベッド 267 床全てを今後もずっと急性期病床として維持すべく、急性期病床 267 床用の新病棟を建設する。
 急性期病床と性格を異にする病床(長期療養型病床、回復期リハビリ病床、ホスピス病床等)が必要な場合は随時増床して対応する。それまでは他施設との密な連携により患者を移動する。
<プラン2>
 今後は急性期病床が 170 ~ 210 床くらい、非急性期病床(長期療養型病床だけでなく、回復期リハビリ病床やホスピス病床も含む)が 50 ~ 100 床くらい必要だと仮の判断をし、現在認可されている 267 床を急性期病床、非急性期病床いずれの用途にも使用できるような形で建設し、とりあえず急性期病床として申請しておく。
 リニューアル後に現実の急性期患者の数をもう一度見極めて、急性期病床と非急性期病床の配分を考える。
 急性期病床の必要数が予想より多く、今回の建築では非急性期病床が不足となった場合は、アネックス(別棟)を増築し、長期療養型病床や回復期リハビリ病棟、ホスピス病棟等の増築を考える。
 反対に急性期病床の必要数が予想より少ない時は、長期療養型病床、回復期リハビリ病棟、ホスピス病棟等を非急性期病床の中で再分配する。
<プラン3>
 急性期病床をまず 150 床くらい新築し、既存の建物内を大々的にリフォーム、 1 ベッドあたりの専有面積を広げるべく、現有の 220 数床を 120 床以下に減らして総ベッド数 267 床とする。病床の申請はとりあえず全て急性期病床としておくか、あるいは、急性期病床 150 前後、非急性期病床 120 前後で再出発する。

 回復期リハビリ病棟やホスピス病棟が既存の建物内でリフォームにより可能なら考えるが、不可能であればあきらめ、旧建物内は全て長期療養型病床として使用する。

 以上が今考えられる 3 つのプランだと思います。

 各々を比較してみましょう。

 まず、建築コストは、高い順にプラン1、プラン2、プラン3でしょう。。

 各々のプランのメリット、ディメリットをみてみましょう。

 プラン1のディメリットは、現在の当院の実績とかなりかけ離れており、急性期入院患者の大幅な増加が見込めないと成り立ちません。医師の大幅な増員、新規診療科増設等の今からはなかなか予定が立たない要素に依存したプランであり、リスクが高いと思います。メリットは、もちろん、今後大発展をとげ実現できたら、これはものすごい成功に結びつくかもしれず、友愛もいわゆる大病院の仲間入りかもしれないということでしょうか。

 プラン2は、今回僕が一番勧めるプランです。そのメリットは、この先のことがまだよく見えないのに現在うちに認可されている急性期病床 267 床のうち何十床かを返還しなくて済むにもかかわらず、非急性期病床(特に、長期療養型病床)としての使用を視野に入れながらの建築が可能で、急性期患者の増加が見込めなかった時に急性期病床から長期療養型病床への転換がしやすいこと、反対に、リニューアル後に急性期患者が増加し、長期療養型病床の増床が必要になった場合、一カ所に高層の多数階の病棟を持ったお陰で敷地内にスペース的な余裕が残っており、回復期リハビリ病棟、ホスピス病棟等を含めて非急性期病床の増築(アネックス、別棟です)も可能だということ、今後の当院の頑張り次第では厚生省が急性期病院として生き残れるかどうか試している数字、急性期病床 200 床という最低ラインなら達成するのはあながち夢ではないということ、そしてなにより、冒頭の当院に対する患者さんの期待に一番応えられる形でないか、という点です。反対に、ディメリットは、急性期病床と非急性期病床が同一建物内に混在してしまうので、性格の違う病棟の運用の仕方を変えるのが難しいかもしれないこと(特にホスピス病棟と急性期病床との混在は困難)、今急性期・慢性期の病棟配分を決めないで、今後の変化で決めようということは、言い換えれば、決断を先送りにしているだけで、病院としての対応が遅れるかもしれないということです。

 プラン3のメリットは資金的には一番安く済むということですが、ディメリットは、新築部分に病床の全てが移動できないので、既存部分のリフォーム時には一時的に入院患者を減らさなければいけないということ、既存の建物を残して敷地内の別の場所に新築するので、今後に他の施設を増築する必要が出た時にスペースがなくなるということ、既存の古い建物をほとんど外観的には残すので、せっかくのリニューアルのインパクトが減少する可能性があること、そしてなによりも、現在の職員の急性期志向の意識を満足させることができるか、ということです。

 ざっとこのようなことを考えてみて、建築コストのことを考えなければ、プラン2がお勧めだと僕は思います。

 以上は建物の話ですが、少しソフト的な話まで言及すると、日揮の報告で当院の医業収入の約6割を消化器科(約 4 割)+眼科(約2割)であげているということ、他の同規模の病院と比較して手術実施率が高く、これが当院を経営的にも支えているということですから、新病棟建設のおりには、新しい手術室や内視鏡的手術室、消化器病センター、白内障センター等の外来部門も併せ作り、サージカル・センターとしての色彩をより強め、当院の強い部分をさらに強化したり、また、照射施設や外来通院化学療法のための施設を作って、手術・化学療法・放射線治療という癌の集学的治療が可能な体制を整え、キャンサー・センター的な色彩も強調したりすることも提案します。

 以上、とりとめもなく色々書きましたが、当院の職員の皆さんはどんな考えを持っているのかぜひ遠慮なく聞かせ下さい。廊下で呼び止めて話してくれてもいいですよ。

 この年報が発刊される頃にはリニューアル準備委員会が発足して実際に活動を開始しているかもしれません。というか、活動していないといけないと思って、この稿を書いています。

 長い文章、お付き合いご苦労さまでした。

(平成 13 年7月発行の友愛記念病院誌の原稿)

バックナンバー

↑To TOP