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#10:医療と経済

 この文章は、平成15年9月の「茨城メンタルヘルスケアネットワーク」機関誌の巻頭言を頼まれた時に書いた文章です。
 今の日本の医療制度に対して現場で感じている様々な矛盾、我々医療従事者の心の葛藤について書いてみました。

医療と経済

友愛記念病院院長

加藤 奨一

 私は医者になってちょうど 20年目の外科医ですが、その間に医療を取り巻く環境が大きく変化しました。特に、国家的な医療費抑制策、各医療機関に対する経済的締め付けなど、医療と経済の関係は、私が医者を志した時代とはすっかり様変わりしました。日本の政治・行政が目指す医療制度のモデルは米国で約20年前から始まった「マネッジド・ケア(管理医療)」ですが、昨今日本の医療は経済に支配されつつあります。

 「医者はお金のことなど考えてはいかん。患者さんの治療のことだけ考えろ。」と先輩に言われながら医者として成長してきた私にとって、昨今の「医者も経済的なことを考えながら診療しろ。医療に湯水のようにお金を使うな。」、さらには「助からない患者、治らない患者に無駄なお金をかけるな。」ととれる、今の日本の医療政策の中で診療にあたるにつけ、「医療というものはこういうことで本当にいいのかな?」といつも疑問を抱いています。
 旧態依然としていた医療界ですから、質とコストの管理を学ぶことは大いに結構だと思いますが、人の健康や命は金銭には換算できないと私はいつも思ってしまいます。

 医療機関、医療従事者主導で医療をよい方向に導きたいのですが、今のご時世医療をする側の意見は取り上げてもらえません。マスコミも読者が飛びつく医療ミスの記事はたくさん書きますが、我々が医療現場で感じている今の医療制度の矛盾・問題点や医療をする側からの意見はほとんどとりあげてくれません。
 ですから、我々医療従事者が唯一期待していることは、発言権のない我々医療従事者に変わって、医療を受ける側が政治・行政に積極的に働きかけ、日本の医療をよい方向に導いてくれることです。その時必ず医療をする側の意見もよく聞いて下さい。
 今のまま日本の医療政策が進んでいくと、いざ病気になったとき、困るのは患者さんやそのご家族です。その時個々の医療機関や個々の医療従事者を責めても、なんの解決にもなりませんし、もう手遅れです。皆さん、医療にもっと目を向けて下さい。

(平成15年9月発行の茨城メンタルヘルスケアネットワーク機関誌の巻頭言)

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