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#27:医療についての相次ぐ麻生失言

 この文章は平成21年1月に発行された病院広報誌17号に書いた文章です。

医療についての相次ぐ麻生失言

          院長 加藤奨一

 昨年11月19日官邸で開かれた全国知事会議で麻生太郎首相は、医師不足問題に関連し「自分で病院を経営しているから言うわけではないが、医師の確保が大変なのはよく分かる。(医師には)社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値観が違う」と発言し、さらに「これだけ医師不足が激しくなれば責任は医師側にあるのではないか」と述べたそうです。

 この発言に対して翌日、日本医師会の唐沢祥人(からさわ・よしひと)会長は「耐え難い環境で医療現場を懸命に守る医師の真摯な努力を踏みにじるもので、奈落の底に突き落とされた思いだ。特定の職業を名指しして、根拠なしに差別するものであり、激しい憤りを禁じ得ない。日本の医療を根底から否定するものだ」と官邸で麻生首相に強く抗議しました。すぐに失言の謝罪をしたそうです。

 医師達からは「労働基準法を完全に逸脱した40時間連続勤務などが常態化する勤務医は、目の前にいる“患者のため”と逃げ出すこともできず、骨身を削って診療に当たっており、確かにその点では“社会的常識が欠落”しているかもしれない。今後は社会的常識に則り、勤務時間を厳守し、目の前に死にそうな患者がいても、労働基準法に沿って、“法で決められた時間になりましたから、今日の診療は終了です。”と言えってことだよ。」との“開き直り”ともとれる発言がたくさん噴出しました。

 また、「勤務医不足は医師のせい」という発言も容認できるものではありません。日本の医療をこれほどの医師不足に陥らせ“医療崩壊”を招いたのは100%医療政策、医療行政の誤りであり、医師達はそうした劣悪な労働環境でも“患者のため”という医師としてのモラルのみに支えられて何とか日本の医療を守ってきたわけです。麻生首相の全くの“失言”だったと思います。

 また、11月20日の経済財政諮問会議で首相は、同窓会に出席した経験を引き合いに出し「(学生時代は元気だったが)よぼよぼしている、医者にやたらにかかっている者がいる。今になるとこちら(麻生首相)の方がはるかに医療費はかかってない。それは毎朝歩いたり何かしているからだ。私の方が税金は払っている。たらたら飲んで、食べて、何もしない人(患者)の分の金(医療費)を何で私が払うんだ。」と発言したそうです。努力して健康を維持している人が払っている税金が、努力しないで病気になった人の医療費に回っているとの見方ですが、病気になるのは本人の不摂生だけが原因ではなく、摂生していても病気になる人もたくさんおり、これも首相の完全な失言です。

 “失言”というものは、言い方が悪いだけではなく、言葉の内容そのものに問題があるわけで、普段思っていることの表現に過ぎません。一国の首相の医療に対する認識がこの程度であることを知り愕然としたのは私だけではないと思います。

 民主党が政権を取っても日本の医療が劇的によくなるわけではないと思いますが、政権政党の自民党のトップがこれでは、“医療崩壊”からいつになったら日本が立ち直れるのか、はなはだ不安です。

 総選挙があったら、各政党の公約やマニフェストをよく吟味して投票しましょう。「国民の声」を政治に反映させる一番よい機会はやはり選挙です。よい医療政策に導いてくれる政治家をひとりでも多く国会に送り出し、日本の医療をよくしましょう。

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