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#55:「病院“いじめ”」と「患者“いじめ”」

この文章は平成28年4月に発行された病院広報誌45号に書いた文章です。

「病院“いじめ”」と「患者“いじめ”」

院長 加藤 奨一

前回、『また「病院“いじめ”」』という文章を書きましたが、2月中旬に決定した4月の診療報酬改定は前評判通り、まさに「病院“いじめ”」の内容になりました。
「病院“いじめ”」改定の主犯は、「7対1看護基準」取得のための「重症度、医療・看護必要度」の基準値の引き上げです。
少し説明します。

#47:7対1看護でも書きましたが、入院治療に対して病院に支払われる診療報酬は、その病棟で勤務する看護師1人当たりが担当する入院患者数が少ないほど高く設定されています。言い換えると、その病棟を担当する看護師の総数が多いほど病院に支払われる入院患者1人当たり1日当たりの診療報酬額が高くなります。
現在一般病棟では、看護師1人が対応する患者数に応じて「15対1」「13対1」「10対1」「7対1」の4区分があります。この中で一番総看護師数が多い「7対1看護基準」は2006年の診療報酬改定で設けられました。

また、決められた基準で数値化された、手のかかる入院患者が全体のどれくらいを占めるかを%表示したものを「重症度、医療・看護必要度」と言います。3月まではこの数字が15%以上でないと「7対1看護基準」を取得できませんでした。
今回の改定では、いきなり25%まで引き上げることになりました。パーセンテージを計算する元となる項目も改定されるので、各病院で現在より多少パーセンテージが上がりますが、現状より10%以上パーセンテージを上げられる病院はそう多くないと思います。日本中の多くの病院が「7対1」から「10対1」に看護基準を下げざるを得なくなります。

確かに、看護師が多ければそれだけ人件費が増えるので、入院患者1人当たり1日当たりの入院基本料を高くしなければならず、その結果日本の総医療費が増えるので、多くの病院が「手厚い看護」から「手薄な看護」に格下げすることで、総医療費を減らそうという厚生労働省(以下、厚労省)の戦略です。

病院はどうなるでしょう。看護基準を下げると収入は減りますが、すぐに看護師を何十人も解雇するわけにはいかず、収益(=収入支出)が悪化します。と言うか、現在でも8割以上の病院が赤字で、数少ない黒字病院の利益率も3%以下なので、大半の病院が赤字に転落することになります。まさに「病院“いじめ”」です。

またもや「医療費抑制」策から発生した厚労省の戦略です。
いつも「医療費抑制」策が全ての根源で、そこから日本の医療提供体制が決められていきます。多くの病院が「手薄な看護」にシフ卜すれば当然患者さんの受ける医療・看護のサービスも低下します。「病院“いじめ”」だけにとどまらず「患者“いじめ”」にもなるということです。こうした厚労省の方針に、医療を受ける「国民の視点」は反映されているのでしょうか?
皆さん、どう思われますか?

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