オピニオン

トップページ > 病院のご案内 > 病院について > オピニオン > #59:土浦協同病院ストライキのニュース

#59:土浦協同病院ストライキのニュース

この文章は平成29年4月に発行された病院広報誌49号に書いた文章です。

土浦協同病院ストライキのニュース

院長 加藤 奨一

今年1月医療界に衝撃が走りました。病床数800床、常勤医師170人以上の、茨城県のみならず全国的にもトップクラスの大病院である土浦協同病院(茨城県厚生農業協同組合連合会が運営)で昨年2月の新築・移転後、経営状態が悪化し、職員の冬期賞与が大幅カットされ、労働組合がストライキを行ったというニュースが流れました。

東日本大震災後の復興や東京オリンピックへ向けての建築バブルで建築費が高騰し、新築・移転の費用が当初の予定額より大幅に膨らんだことが経営不振の原因であると報道されていますが、新病院では患者数も増え、職員は忙しくなったと聞いており、長年続いている“医療費抑制策”(=病院の収入削減策)が根本原因だと思われます。

病院の収入は厚生労働省が決める医療の公定価格である“診療報酬”で決まります。“診療報酬”は、医師などの“技術料”と薬剤費である“薬価”で構成されており、2年ごとに改定されますが、ここ何回かはずっとほぼプラマイゼロ改定が続いています。

マスコミは医師などの“技術料”が上がるとイコール医師の収入が培えるように報道しますが、病院では人数的に医師は全職員の1割以下しかおらず、“技術料”で他の9割以上の職員(看護師、技師、事務職員など)の給与を支払い、医薬品や医療材料の購入費や他のさまざまな運営費もそこから支払われます。
“技術料”が上がっても病院勤務医の給与は上がりません。CTやMRIなど何倍、もする高額医療機器も10年前後で買い換えが必要になり、また、今回の土浦協同病院のように、何十年ごとに何十億~何百億円かけて建物を立て替えなくてはなりません。そうした費用すべてが医師などの“技術料”でまかなわれています。

“医療費抑制策”で収入が伸びない割に、物価や人件費の上昇、消費税率のアップや、病院が行政から求められる業務の増加で、支出の方が余計に増え、病院の収益(=収入-支出)は減り続けています。赤字病院率(9割以上)が上がるだけではなく、黒字病院でさえ立て替えや高額医療機器の買い換えの費用を捻出できなくなっています。ただ、地域医療を支えている病院には公的病院が多く、毎年大赤字でも自治体などから“補助金”をもらい、何とか診療を継続しています。このまま行くとそのうち公的病院への“補助金”が高額になりすぎ、自治体も支えきれず、公的病院までもが閉院し、完全に“医療崩懐”になります。そうなるまではマスコミも国民も騒がず、手当てしないのだろうと思います。私は日本の病院医療の将来を大いに憂いています。

バックナンバー

↑To TOP