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#63:病院勤務医の「働き方改革」

この文章は平成30年4月に発行された病院広報誌53号に書いた文章です。

病院勤務医の「働き方改革」

院長 加藤 奨一

最近マスコミでは、安部首相の提唱する「働き方改革」の話題で持ちきりです。いろいろな業界での長時間労働や過労死の問題などがニュースで取り上げられています。医療界でも病院勤務医の長時間労働が問題になっています。多くの病院で当直明けの終日勤務は今も普通に行われており、これをなくすと、外来診療を休診にしたり、救急患者受け入れの制限をしなければならなくなります。

医師法19条には「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定めており、これを医師の「応招義務」といいます。勤務医の長時間労働を是正するには、長時間労働を回避することを「正当な事由」に含めるなどの医師法の解釈の変更も必要になり、日本の医療提供体制は後退するでしょう。

政府は2017年3月、長時間労働を是正する方策などを盛り込んだ「働き方改革実行計画」をまとめましたが、医師への規制適用には5年間の猶予が与えられ、同年8月から「医師の働き方改革に関する検討会」が毎月開かれています。ただ、すでに全国各地で勤務医の時間外賃金不払いの裁判がたくさん起きています。医師の給与を年俸制としている病院も多く、年俸に時間外給与も含まれると考えて運用しています。定時で帰れる日もあれば、夜中まで働かなければならない日もあるのが医師の仕事の特徴で、忙しくても暇でも同じ給与で恨みっこなし、という考え方でやってきましたが、最近の趨勢はこうした仕組みも許されなくなりつつあり、勤務医にも普通のサラリーマンと同じような給与体系が求められつつあります。

病院経営者の立場からは、こうした勤務医の勤務時間短縮と賃金増額は頭の痛い問題です。厚生労働省は、職員一人当たりの「勤務時間短縮」と同時に病院の「業務量増加」「収入減少(=医療費抑制)」を求めてきます。病院でやらなければならない仕事が増え、職員一人当たりの勤務時間を減らすのなら、職員数を増やして人件費を増やさなければいけないのに、病院の収入は減らすという矛盾です。「もう無理!続けられない。病院やめます」と病院経営者に言わせて、全国の病院病床が減ることが狙いなのでしょうか。今の病院病床を2、3割削減して、在宅医療に誘導し、医療費を削減したいということかもしれません。国民は本当にそれでいいのでしょうか?

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