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#77:自由経済から取り残された「医療」

この文章は2022年10月に発行された病院広報誌67号に書いた文章です。

自由経済から取り残された「医療」

院長 加藤 奨一

連日「値上げ」のニュースで賑わっている昨今にありながら、自由経済の中でも「値上げ」できずに「国民皆保険制度」を必死で支えている日本の病院が憤かれている経営環境について考えてみましょう。

新型コロナウイルス感染症パンデミックやウクライナ戦争の影響で、世界的に燃料費、原材料費、物流費などが高騰し、さまざまな業界で、増えた支出とのバランスを取るため、収入である「売値」を上げざるを得なくなりました。しかし、病院の「売値」である診療費は上がっていません。

病院の収入は、国が決めている法定価格である「診療報酬」です。一般の業界なら、原材料費や人件費が上がり、支出が増えれば「売値」も上げますが、病院では、薬剤、診療材料の購入費が増えたり、人件費が増えたりしても、「売値」である診療報酬額を上げられません。病院がモノを買っているさまざまな業者の仕入れ価格は市場経済によって上がっているにもかかわらず、病院側の「売値」である診療報酬額は上げられないという、不公平な状態がずっと続いています。

高度経済成長時代では病院への締め付けも緩く、利益率も高く、多少の支出増加はなんとか吸収してやってきましたが、少子高齢化、人口減少、低経済成長となり、社会保障費の増大を抑えるため「医療費抑制策」が国策となってからは、診療報酬は十分に上がらず、赤字病院が半分以上で、黒字病院でさえ収支差額は微々たるもの、支出が少し増えればすぐ赤字に転落します。今や、世界に冠たる日本の「国民皆保険制度」も、病院や医療従事者の犠牲の上に成り立っています。今まで通りの「国民皆保険制度」を今後も継続することは本当に可能でしょうか。

以下は全くの私見です。

日本医師会は猛反対するでしょうし、平等に慣れきった日本の国民の多くも反対するでしょうが、医療費の公的負担は定率ではなく定額にし、各々の病院は、支出の増加に合わせて、患者の自己負担額を上げられるような、新たな診療報酬制度の導人なども考えてはどうでしょうか。それが無理なら、病院は全て公立とし、医療は自由経済から完全にはずすという選択肢もあります。

国やマスコミは「医療費抑制策」を莫迦の一つ覚えのように唱えているだけでなく、医療費制度のあり方を真剣に議論してもらいたいと思います。

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